リウマチに悩んだ歴史上の人物
はるか昔から、人類は関節リウマチに悩まされてきました。
万葉の歌人 山上憶良は
「四肢動かず、百節皆疼(ひひら)き、身体太(はなは)だ重きこと、猶(なほ)し鈞石(きんせき)を負ふがごとし」(万葉集巻、山上憶良作「沈痾自哀文」より)
という詩を残しており、関節リウマチの苦しみを詠ったのではないか、と言われています。
印象派の画家ルノワールは、関節リウマチによる高度の手の変形から、絵筆を包帯でくくり付けて描いていた写真や動画が残っています。
そのためか晩年の作品はタッチの荒いものが多いですが、より情熱的かつ豊かな色彩で、温かみのある女性の絵を多く残しました。
リウマチ治療の歴史
まだ私(原田)が研修医のころ、高齢の医師に聞いたことがあります。
「昔のリウマチ治療はつらかったよ。ステロイドしかなくてね。患者と2人、手をさすりながらつらいねと言い合うの。診察室が暗く感じたものだよ。今は全然違う、本当にいい時代だね」
リウマチが初めて医学的に報告されたのは1800年、「新しいタイプの痛風か」と報告されました。
19世紀紀半ばになって、「rheumatoid arthritis(関節リウマチ)」と名付けられました。古代ギリシャ時代ヒポクラテスが、脳から悪い液体が下方に流れ出て体中を巡って病を生じるとして、それを「rheuma(流れ)」と呼んだのに因んでいます。
初のリウマチの薬は、アスピリンという痛み止めでした。
東洋でも西洋でも古くから鎮痛作用が知られていた柳の樹皮から、19世紀半ばにサリチル酸がつくられ、1899年にこれを改良したアスピリンが解熱鎮痛薬・関節リウマチ治療薬として発売されました。
その後関節リウマチの特効薬探しから、1948年にステロイドが開発されました。ステロイドの抗炎症効果はすごいものでしたが、しかしそれも関節の破壊を止める効果はなく、痛みを和らげるだけでした。
リウマチ治療の新時代
1980年代になり、メトトレキサート(リウマトレックス®)が登場しました。
初めての、関節破壊の進行を抑える薬です。
これによりリウマチはついに「寛解する」病気になりました。
現在では、生物学的製剤、JAK阻害薬というサイトカインにアプローチする薬が次々に発表され、多くの患者さんが寛解となり、これまで通りの日常を送れるようになりました。
十分な治療法がなかった時代、関節リウマチ患者は一般の人より10年寿命が短いと言われましたが、いまでは発症早期から薬物療法を積極的におこなうことで、寿命は一般の人と遜色なくなり、関節の変形による手術数も激減しています。
治療に前向きに取り組めば、自分らしい人生を諦めなくていい時代です。